最終日、竜泉で見たもの
かつては15台ほどのワゴン車が都内を走っていたが、最後は6台になった。曜日によって秋葉原や浅草などをエリアごとに回っていた大学堂は、それぞれの地域によって最終営業日を決めていた。9月末のこの日は浅草を回る最終日だった。
三ノ輪の駅を降り、路地に入ると、すでに遠くからリズム音が聞こえてきた。ゆっくりと大学堂がマンションの角に停まる。すると、周辺の家から親子が飛び出してくる。
今日で最後であることは、店頭に貼られた張り紙と、スピーカーから聞こえるマイクのアナウンスでわかった。
「本日を持ちまして大学堂の販売を終了いたします。長いこと、ありがとうございました」
閉店の報はワゴン車に貼ってあるが、大々的に告知をしているわけではない。だから、今日が最後だと知らない人もいるようだ。並んでいる列から「ええっ」という声がする。常連同士の会話で最終日とわかったようだ。
皆、運転する店員に「今までありがとう」「お疲れさま」と声をかけていた。予め知っていた子どもは、何やら包み紙を渡していた。感謝の手紙を添えたプレゼントだった。60代とおもしき店員の男性が、それを笑顔で受け取っていた。少し話を聞いてみた。
「張り紙のとおり、車の維持が難しくなったんです。イベント出店があと数回ありますけど、この場所での出店は今日が最後です」
聞けば、10月にも千葉のほうでイベント出店の予定があるそうだが、こうして街を走っての販売はこれが最後になるという。
「もう長いですからね、親子3代で大学堂を食べているっていう人もいますよ」

閉店を告げる張り紙。

ホットドッグ。
すでにアイスクリームは欠品も出ていた。いつもより多めに持ってきたんですけどね、と店員が笑う。
「今日はパンが終わるまでまわりますよ」
店員はそう言い残し、運転席の扉を閉めた。大学堂は、ブロックとブロックの間のわずか数メートルを、ゆっくりと走り去っていった。アイスクリーム、アイスクリーム、アイスクリームだよ、と歌いながら。