話題の作品を常に世に送り出している渋谷区宇田川町の映画館「UPLINK」。1999年にイベントなどを行うスペースとして誕生した同館は、2006年に現在の場所に移転した。ドキュメンタリーや単館上映作品を上映し、多くの映画ファンから愛されているミニシアターだ。

渋谷の喧騒から離れた、最近注目の奥渋谷にある。1F部分にはカフェが併設されている。
そんなUPLINKがこの8月からスタートさせた新たなサービス。それが学生団体割引だ。引率の先生を含む学生のグループで申し込めば、対象作品に限り鑑賞料金が割引価格になるという。概要は次のとおり。
・月、火、木、金(祝日、毎月1日の映画サービスデーは除く)
・学生お一人様800円(通常1,100円のところ)引率の方は一般料金
・5名~25名程度
・鑑賞日前週の金曜まで
・対象作品に限る
一見、「学生向けの割引プラン」と思われがちな内容だが、実はこうした試みを行っている映画館はほとんどない。劇場担当の上西園麻友さんに話を伺った。
学生が多く訪れる裏にあった
「課題」の存在
「きっかけは、学生さんが多いなと感じた作品があったからなんです」
受付スタッフがある時、学生が多く訪れるのが、ある映画に集中していることに気がついた。気になって尋ねてみると「学校の課題なんです」という。
「例えば先日上映していた『ディオールと私』という作品は、ファッション系の専門学校で課題として出されていたものでした。従軍慰安婦を取り上げた『“記憶”と生きる』も、ある学校の課題となっていたようです」
シネコンなどの大きな映画館では配給が難しい作品も、短館だからこそ取り扱うことができる。UPLINKではかねてより、社会問題に切り込むような、深い作品を多く上映してきた。すなわち、大学や専門学校が、授業の課題に指定しうるようなテーマの映画が多く存在していたのだ。それならば、と考え出されたのがこの団体割引だった。

2Fにある物販コーナー。上映作品のグッズはこちらで。
「ひとりで映画を観るよりも、ゼミやクラス単位でご覧いただいたほうが、そのあと作品について話すことができますよね。こういうプランがあれば、学校側としても便利なんじゃないかなと思ったんです」
参考にしたのは、神保町にある「岩波ホール」の学生支援プランだという。同じく学生の団体割引を行っていて、「映画を映画館で観よう」という点が大きな命題になっている。ヨーロッパシネマズの助成を受けており、ひとり500円で映画を楽しめるのが特徴だ。こうしたサービスをチェックしながら、UPLINKは独自の割引プランをスタートさせることになった。
「今回のプランは、学生さんに向けたものでもありますが、UPLINKでは学校やゼミの先生との結びつきを深めていきたいと考えています。そうした方々を巻き込んで、学生の方々へ映画の情報を発信していけたらなと」
学生同士でワイワイと観るだけなら学割を利用すればいい。本プランの利用には、必ず引率者が必要となっている。教師が同行して鑑賞することで、一般の鑑賞では知り得ない知識も授業内で補完できるはずだ。学生にとっては、より多角的に映画の世界を味わうことができる、貴重なプログラムになる。
若い人に映画を好きになってほしい
UPLINKの願い
近年、映画館離れが叫ばれている。インターネットやDVDなど、家でも映画を楽しめる環境が整った今、人々が映画館へ足を運ぶことが少なくなった。NTTコムが2015年6月に公表した調査によれば「直近1年以内に映画館で映画鑑賞をしていない人」は全体の64.1%で、前年度から5%減少したという(NTTコム リサーチ/第4回「映画館での映画鑑賞」に関する調査より)。
こうして鑑賞率が年々下降を続けるなか、若年層の数値が上がっているというデータも確認できる。ここにひとつの希望を見出せるのではないだろうか。

スクリーンは3つ。UPLINKの配給作品が上映されるのも特徴だ。
上西園さんはこう話す。
「当館は、他の映画館に比べれば若い方のご利用が多いほうだと思います。特に学生の方には、以前から平日1100円というプランを用意していますから。UPLINKには、学生さんに足を運んでもらって、映画を好きになってほしいという思いがあるんです」
UPLINKが始めた新しい試みは、いずれ映画業界全体にとっても、大きな宝となる可能性を秘めている。果たして、明日のシネフィルを生む種となるか。学生たちの心を掴んで離さない良質な作品が、今日も新たに上映される。
UPLINK
場所:東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F
電話:03-6825-5503
URL:www.uplink.co.jp