「閘門」(こうもん)、それは水位の異なる河川や水路を船舶が通行するために、水位を上下させてスムーズに通れるよう調整する装置である。
この8月、江東区の小名木川に設置された閘門、「扇橋閘門」の一般開放が行われている。普段立ち入ることのできない施設内を見学できる貴重なイベントだが、そもそもなぜ小名木川に閘門がなければいけないのだろうか。それにはまず、江東区という街について知る必要がありそうだ。
江東区に運河が多いワケ
自らを「水彩都市」と謳う江東区。南端は東京湾に面しており、区内には河川が数多く走っている。区内を歩いていると、そこかしこに水辺の風景が顔を覗かせる。

横十間川の風景。海抜の低い江東区では水位にも気を配る必要がある。(撮影者:Nzrst1jx)
しかし、自然河川は隅田川および荒川のみである。それ以外はすべて人工河川だ。地図中にある川のほとんどが運河なのである。
江東区は江戸時代以前は湿地帯であり、江戸市街から出たゴミの埋め立てでその面積を広げてきた。水辺の街という特性を活かし、建設用木材を保管用地するための木場や、現江戸川区の行徳から塩を運ぶために作られた小名木川など、江戸への物資の保管場所や、運搬経路としての役割を担うことが多かった。
こうして、必然的に運河が増えたのである。
「東京のパナマ運河」こと
扇橋閘門
本記事の舞台となるのが、前述の小名木川だ。遠く離れたふたつの川を繋いだため、その距離は東西に4kmと長く、最東端と最西端では水位がなんと3mほども違うという。この水位を調整し走行を可能にしているのが、小名木川中央部にある扇橋閘門なのだ。

江東区扇橋付近にある水門。赤が眩しい。
扇橋閘門では片側から船を入れて扉を下ろし、自然の水位調整の力を利用して船を昇降させる。このしくみは、太平洋とカリブ海をつなぐパナマ運河と同じ造りであり、これが「東京のパナマ運河」と呼ばれる所以なのである。

1914年に開通したパナマ運河。建設に関わった青山士(あおやまあきら)は、のちに荒川放水路建設工事にも従事した。
「中はこうなってたんだ!」」
区民に人気のイベントに
この一般開放が行われるようになったのは2009年。今回が第7回目となる。回を増すごとに参加者も増え、前年の2014年には延べ1000人が訪れる人気イベントになった。
東京都江東治水事務所水門管理課は、取材に対しこう答える。
「いちばん多くいらっしゃるのは区民の方、とくにご近所の方ですね。近くに住んでいる人ほど、『あそこには一体何があるんだろう?』と気になられているようなんですね。水門自体は外から見えるんですが、中でどういうことが行われているのかはわかりませんから。
あと、小名木側の東西での水位の違いもあまり知られていないので、説明すると驚かれる方が多いです」
また、扇橋閘門の中にある発着場が防災船着場としての用途も兼ねていることも、地域の人に知ってもらいたいと言う。防災船着場とは、災害時に使用できる船着き場のこと。1993年の阪神大震災で船舶を使った運行が見直され、東京でも荒川、隅田川、神田川、日本橋川など、都内の河川に整備された。本イベントのように、定期的に一般開放され、民間の船舶が利用できるという。
船があれば発着OK
レアな防災船着場
今回の一般開放では、一般の船舶でも扇橋閘門の中を通行できる。船舶をお持ちの方は、ぜひこの機会に貴重な閘門内を運行してみてはいかがだろうか。防災船着場を使用する場合は管理課へ事前連絡が必要なことと、運行の際は「江東内部河川における船舶の通行方法」を遵守する必要があるので予めチェックを。

東京都建設局河川部が配布している「江東内部河川通航ガイド」
最近では東京スカイツリーの開業により、ツアーの観光船や民間船舶の往来が増えたとか。なんとカヤックの姿もあるそうだ。碁盤の目のように張り巡らされた運河を進むのは、自然の海や川とはまた違った味わいがあるに違いない。いざ扇橋閘門を通り抜けて、楽しい江東デルタの旅を。
「扇橋閘門」一般開放
日時:8月8日(土)、9日(日)、15日(土)、16日(日)、22日(土)、23日(日)、29日(土)、30日(日)いずれも9:30〜17:00(説明会:①10:30〜、②13:30〜、③15:30〜)
会場:扇橋閘門
場所:東京都江東区猿江1-5-18 https://goo.gl/maps/iOWKn
料金:無料
問い合わせ:東京都江東治水事務所水門管理課 管理係 03-5620-2493(平日のみ)
[特典]
・見学された方には粗品進呈(数に限りあり)。
[利用案内]
・施設内は見学自由(立入禁止区域以外)
・見学の申し込みは不要。団体は要問い合わせ。
・防災船着場を利用される方は要事前連絡。長時間の利用はご遠慮を。
・「江東内部河川における船舶の通行方法」を守って航行すること。
・施設内は禁煙。
・駐車場施設は無し。公共交通機関のご利用を。