一時はファッションとして捉えられ、「サードウェーブ男子」なる言葉も誕生した東京のコーヒーシーン。その消費の裏で、バリスタたちは真摯にコーヒーを淹れ続けてきた。かつて新店ができると「似たような店がまたできた」と皮肉られたが、人々が新しいコーヒーカルチャーに慣れ親しんだ結果、店ごとの個性が受け入れられやすくなった。
今や渋谷や原宿では、至るところにコーヒースタンドが点在する。NO.8 BEAR POND、STREAMER COFFEE COMPANY、THE WIRED COFFEE ROASTERS、PADDLERS COFFEE、DEUS EX MACHINA HARAJUKU……と、挙げ始めればキリがない。そんな渋谷に2016年3月10日に新しく誕生したのが、「THE LOCAL COFFEE STAND」(以下「THE LOCAL」)だ。
月替りで取り寄せる
世界&日本各地のコーヒー豆
一般的に、コーヒーショップではひとつのロースターの豆を使用するのが通例である。それはサードウェーブ系ショップに限ったことではなく、大手コーヒーチェーンも然りだ。複数の業者から原材料を卸すのはコスト的にも負荷が高くなる。それ以上に、自身の味を突き詰めるには一社のロースターとともに根気強く焙煎を繰り返す必要がある。
しかし「THE LOCAL」はその定石を覆す。
「他の店はひとつのロースターさんと組むことが多く、そのロースターはあまり表には出てこない。でも僕たちは逆で、自分たちの焙煎した豆を売り込むのではなく、全国の豆を紹介します。そういう意味では他にないコーヒースタンドだと思います」
そう語るのはバリスタの大槻佑二さんだ。ポールバセットでバリスタとしての修行を積んだ大槻さんは、コーヒーカルチャーをより広く深いものにするために、青山ファーマーズマーケットで行われるコーヒーイベント「TOKYO COFFEE FESTIVAL」を主宰している。今回「THE LOCAL」では、使用する豆の厳選やバリスタの教育などを引き受けている。。

バリスタの大槻佑二さん。自身も店に立つ。
ドリップコーヒーに使用される豆は、世界や日本各地から取り寄せた豆だという。オープンにあわせて登場する豆は、サンフランシスコの「リチュアルコーヒーロースターズ」、京都の「WEEKENDERS COFFEE」、名古屋の「TRUNK COFFEE」だ。これからも月替りで各地の豆を用意していくという。また、エスプレッソ系コーヒーには東京の「GLITCH COFFEE & ROASTERS」を使用している。

カウンターには現在取り扱う豆が並び、購入も可。

オープン時のメニュー。初日のコーヒーは名古屋の「TRUNK COFFEE」のものだった。

一杯ずつていねいに抽出するハンドドリップのメニューも。
ブログからリアル店舗へ
「GOOD COFFEE」の軌跡
この発想の根幹にあるのが、大槻さんとともに立ち上げに関わる竹内剛宏さんが運営するウェブサイト「GOOD COFFEE」だ。このサイトは、全国のコーヒーショップを紹介するガイドブックであると同時に、実際に様々な店舗の豆を購入できるアンテナショップのような役割も果たしている。

オンラインガイドブック「GOOD COFFEE」を手掛ける竹内剛宏さん。
「もともとは僕がひとりで始めたブログだったんです。まさか実店舗ができるとは思っていませんでした」
とあるコーヒー特集の雑誌を手にとった竹内さんは、「わざわざ重たい雑誌を持って出歩くより、スマホに情報が入っていたら便利なんじゃないか」と思いつく。そして2012年に始めたのが、個人ブログ「GOOD COFFEE」だった。

「GOOD COFFEE」には店舗情報とコーヒー関連のトピックがぎっしり掲載されている。
主要コーヒー店をマッピングした「GOOD COFFEE」は、コーヒー通の間でまたたく間に話題になった。人気を確定づけたのは、「このサイトは信頼できる」というプロのバリスタたちからの支持だった。各地のコーヒー豆をセレクトして販売するウェブショップもスタートし、現在では4人の内部スタッフと海外の執筆スタッフを抱えるまでに成長した。
「僕がコーヒースタンドを初めてしまうと、これまで掲載してきたお店と競合になってしまう。なかなか棲み分けが難しくなってしまいますよね。なので何か新しいコンセプトが必要だなと思ったんです」
そこで思いついたのが、全国各地にあるコーヒースタンドの味を紹介するというアイデアだった。

カップにはスタイリッシュなロゴ入りスリーブが。