政府が発表する様々な指標とは裏腹に、一般庶民にとっては具体的な景気回復の実感が持てない日々が続く今日この頃。そんな中、本業の傍ら、自慢の腕をふるって絶品料理を提供する個人商店が増えている。アッと驚く大胆な「二刀流ビジネス」を展開する背景には何があるのか。そんな都心の「副業メシ」の実態を調査する連載、その第2回。
花屋で食事!
正直、においって大丈夫?
昼下がり。色とりどりの花に囲まれてカレーを食べる。スパイスと蘭の香りがまざる。真昼間から、いささか官能的ですらある。ムンバイあたりのIT長者の豪奢なランチのようだ。だが、ここは文京区本郷である。
そこは花屋なのである。本業、生花店。副業がレストラン。「フローリストKT」がその店の名である。KTは「奇麗な定食屋」のイニシャルではない。オーナーの塚田かずよさんの頭文字である。
「花屋のなかで食堂をやって、香りは大丈夫かな、って開店当初は随分心配したんですよ」
だが、意外な相乗効果があった。
「店で煮炊きするようになって、冬でも蘭やユリみたいな夏の花のいきおいがよくなったの。不思議ですよね」
ーーなるほど!
いやいや、ちがう。ほんとうに不思議なのは、なぜ花屋でレストランなのか、である。
「花屋は15年。レストランは6年。ぜんぶ流れでここまできました」
塚田さんの口調はテンポがいいのに、圧迫感はない。相槌がうちやすい。だから塚田さんの話しを聞いているとスプーンを運ぶ調子も軽くなる。「今日で煮込んで4日目」と言うカレーがすいすいと喉をとおりすぎる。ただ油断するとあぶない。辛味はかなりある。こっちが本業なのでは?と思えてくる。
「そもそも花屋だって始める気はなかったんですよ。ちょっとね、自宅マンションの中がね、花で一杯になっちゃって、花屋をやったほうがいいでしょ、って税理士さんに言われたのがきっかけなんです」
すぐに花で一杯の自宅が思い浮かんだ。
ーー不勉強ですみません。塚田さん、スター、なんですか?
「ちがいますよ。結婚前にフラワーアレンジメントの先生をやっていたんだけど、20年ほど前に友人の服飾デザイナーにたのまれて展示会のお花のアレンジをしたの。だんだん仕事が増えちゃって、家が花で埋まっちゃったんです。だったら花屋やれば、って税理士さんに言われて」
思いついたら即実行。塚田さん、本郷で花屋を開業した。そして本郷という土地が、副業へも導いていった。