自治体がそのエリアの住民に対して、生活にまつわる様々な情報からイベント・催事までを伝える媒体・広報誌。東京23区でも区ごとに独自の広報誌が配布されているが、正直なところ興味はありつつも熱心に読んだことはない、という読者が多いのではないだろうか。
そんな中、「世田谷区 広報誌でAR動画を使ったPRを試験的にスタート」で報じたように、区の広報誌「せたがや」を使って先進的な試みに取り組んでいるのが世田谷区だ。
この「せたがや」を用いて2015年9月1日から行われているのが、広報誌のスマートフォンへの配信だ。これまで公民館などの区の施設やコンビニなどで配布するほか、PDFファイルを区の公式サイト上で展開していた同誌。9月1日号からはアプリ「i広報紙」を利用することで、スマートフォンで広報誌を読むことができるようになった。
調べてみると、この「i広報紙」というアプリを制作し運営しているのは、福岡県福岡市に本社を置く株式会社ホープ。自治体が民間企業が制作しているプロダクトを利用するには様々な制約からハードルが高そうだが、どのようなモデルで運営されているのだろうか。
PCのない家庭でも
スマートフォンなら持っている
「弊社はもともと自治体の広告関連事業を10年ほど行ってきました。そこで課題となっていたのが、広報誌があまり読まれていない状態にあるということ。地域に根ざした情報が詰まった媒体ではあるので、特に若い方にも読んでいただけるようこのアプリの開発に着手しました」
取材に対応いただいたのは、同社で本サービスを担当している田中悠太さん。スマートフォンによるインターネット利用がPCに迫る勢いで増えているということもあり、アプリとしての開発を進めたそうだ。
アプリをダウンロードすると、自分の住むエリアの入力画面に切り替わる。そこで例えば「世田谷区」を選択すると「せたがや」の他、(公財)世田谷区スポーツ振興財団、(公財)せたがや文化財団が発行する「せたがや文化・スポーツ情報ガイド」や「世田谷区スポーツのしおり」も読むことができる。
自治体は無料でこのアプリを活用して広報誌の配信ができるため、導入がしやすいようだ。また、マネタイズはアプリ内の広告で行っている。
「現在では約250の自治体に導入をいただいています。11月にアップデートを予定しており、広報誌だけでなくHPの新着情報もアプリで確認できるようになります。なかなか行政の動きに関心を持ちにくい今、自分の住む町を知るきっかけを埋めるよう『みんなが町を好きになるアプリ』を目標にしているんですよ」
現在は自分の住むエリアの広報誌のみ閲覧ができる状態だが、今後はそれも増やしていくとのこと。聞けば、子育て中の母親が住んでいる行政区外のイベント情報を知りたいという需要や、故郷の広報誌を読んでみたいという意見が多く集まっているそうだ。
自分が住んでいる街の情報というのは、ともすれば日々の暮らし慌ただしさの中で、逆に目が止まりにくいものの1つだろう。でもそこに引っ越した時には、もっとこの街を知りたいと思ったはずではないだろうか。テクノロジーによって街と人をつなぐこのような動きには、引き続き注目していきたい。