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もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]

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もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]
FEATURE
東京で起こっているハイパーローカルな動向を独自取材し、特集形式でお届け。
2017年11月3日
もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]
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文・写真_三原明日香
「宇ち多゛」やスナックには、
客側が店に気を遣う文化がある

仲見世通り商店街。

林:せっかく立石に来たんだし、仲見世の「宇ち多゛」に入って話そうか。

草彅:ここって注文が「ラーメン二郎」並みにめちゃくちゃハードル高いところですよね。

林:そうそう。メニューには「モツ焼き」と「煮込み」しかないんだけど、頼み方が色々あるんだよね。モツの部位と味付け、焼き方の3つを組み合わせて注文するんだよ。たとえば大腸の部分を塩味で焼いて、レアで食べたかったら「シロシオワカヤキ」って言うの。

草彅:え? 今の何かの呪文ですか?(笑) 行列に並んでいる間に予習しとこう。

店員:入っていいよ。狭いからぶつからないように、鞄を自分の体の前に抱えてね!

草彅:(あたりを見回して)いやぁ~、ここはおじさんとモツの聖地ですね(笑)。薄暗い中に黄色っぽい明かりがついているところとか、隣の人との距離の近さとか、なんかいい雰囲気ですね。

林:人間には「心地よいスケール」というのがあって、強弱はあるけど、「狭いほうが落ち着く」という部分は、誰しも備わっているんです。立石の場合は、みんなで身を寄せ合って闇市をしていた頃のスケール感なのかわからないけれど、結果的にヒューマンスケールができているんだよね。ヒューマンスケールの街は、自然とヒューマンな店が集まって切磋琢磨するようになるんです。あっ、すみません。煮込みとカシラタレ、アブラシロ、ウメください。

店員:はいよ。

草彅:伝票を取らないで、店員のおじさんが全部注文を覚えているんですね。全メニュー200円だから、最後に皿数を数えればいいシステムも面白いですね。

林:そうなんだよね。俺は「宇ち多゛」を語れるほど通じゃないけど、最初からいろんなことにこだわってきたことは感じるよね。ある意味ではサービスも捨てているし、ものすごく研ぎ澄まされている。デザインでも何でも自信がないと絞れないけど、ここは圧倒的な確信を持ってやっているんじゃないかな。

草彅:これは一種のカルチャーですよね。「ラーメン二郎」もそうだけど、注文が呪文みたいでどうしたらいいのかわからないところとか、店主やさらには常連のお客にまで怒られるところも魅力になっていると思います。結構スナックに近い部分はありますよね。スナックの何がすばらしいのかというと、独自のメニューがあって、みんながそれを頼んでいたり、客が店の中に入って手伝ったりしているところじゃないですか。大衆居酒屋やスナックって「ものすごく安い金額で食べさせてもらっている」という感謝が根底にあるんですよ。だから、オーダーも客側が飲み込んで、店に気を遣うという文化ができています。これは価格設定も大きいと思いますよ。多分「宇ち多゛」が5000円くらいの価格だったらみんな「食べログ」でキレてると思うんですよ(笑)。でも安くてうまいからみんな喜んで従うんですよね。

林:けっこう独特なスタイルだよね。最初から人はこれを魅力だと感じていたのかな? それとも今だから魅力に感じるのかな。もともと立石から発生したコミュニケーションスタイルなのかどうかは知りたいよね。

本当にいいプレイヤーには、
家賃無料でも入居してもらったほうがいい

駅北口からすぐのところにある「蘭州」にはいつも行列ができている。

草彅:林さん、僕のおすすめは「蘭州」なんです。ここの水餃子はマジ神ですよ。ぜひ酢コショウにつけて食べてください。酢にコショウだけ入れてつけダレにするんです。

林:コショウいれすぎじゃない? (一口食べてみて)おお、確かにおいしいね。

草彅:ここは注文が入ってからタネを包むんですよね。焼き餃子とニラ餃子も頼みましょう。このへんの個人店もなくなって、チェーン店が増えていくんですかね。

林:チェーン店でも今までは均質にするのが合理的という判断だったけど、福岡の太宰府にある和風空間のスタバみたいに、最近は経営はチェーンでも場所や店ごとに個性を出すようになってきているんだよね。生産性を上げるためのインフラやシステムは共通にしてコストを抑えればいいけど、店舗は多様化させるという考え方が経済的にも合理性を持っていくと思う。だからこれからは「チェーンばかりになったらどこも同じでつまらない」とは一概に言えないんじゃないかな。

草彅:僕らには情報が降りてこないので実態が見えないのですが、立石に携わっているお役所さんや建設関係の人たちも、内心「これでいいのかな?」と不安に思っているはずじゃないですかね? だから水面下でいろいろ考えているのではないかと期待しているんですけど。

餃子を食べる二人

林:たぶん、集客やブランディングに貢献するようないい個人店は「家賃無料でもいいから入ってください」という引き合いが来ると思いますよ。ナギさんは「家賃0円の物件でしか店をやらない」って言っているじゃないですか? 個人店でも本当に集客力があればそういうオファーが来るので、タワマンの足元だからと言って、入れないことはないと思うんだよね。まぁ立石じゃなくて別のエリアに引き抜かれる可能性もあるけど。

草彅:そうなんです。地元の人気店には、無料で店舗を提供したほうが経済効率的にもいいと思いますよ。みんな賃料上げるために都市開発をがんばっていると思うんですけど、東京都でもいいプレイヤーは圧倒的に少ないので、賃料が安い方へ流れているんですよね。だから安くしないといい店も入居しないし、結果的に人も集まらないんじゃないかな。

林:再開発に関わるディベロッパーさんは、株主に利益を還元するために一生懸命努力しているのは間違いないけど、クリエイティビティへの執念が足りないと感じることはあるね。三井不動産や森ビルは真面目で意識が高いから、「このエリアを育てていこう」という視点で考えるんだけど、普通の会社はそこまで余裕がない。ただ、彼らの理屈としてトクする話であれば飛びつくんですよ。だから「長期的経済活動としてどうなのか」という視点が欠かせない。たぶん新しい立石に必要なのはクリエイティブに対するパッションであり、ナギさん風に言えば「編集」なんだよね。

草彅:僕が編集するとしたら、やっぱり今のカルチャーを残したいですよね。僕は立石でがんばっている個人店の一人も出て行ってほしくないです。ここで長年かけてブランドを作ってきたわけですからね。仮になくなってしまうというなら、そのお店のレシピを買えるサービスを作るのはアリだよね。武蔵小山のときも思ったんですけど、僕らが「続けてほしい」って思っていても、プレイヤー側が疲弊していることがある。結局外からの意見で勝手な意見なんですよ。だから無茶は言えないけど、看板やレシピを残しておけば、後から再現できる可能性が残ります。それは、お店の思い出を持つ人が継承すべきだと思うんですよね。

半身の唐揚げで有名な「鳥房」でお土産を買う。店舗横には再開発反対ののぼりが。

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