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もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]

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もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]
FEATURE
東京で起こっているハイパーローカルな動向を独自取材し、特集形式でお届け。
2017年11月3日
もつ焼きの聖地にタワマンは必要か? 東京R不動産・林厚見と東京ピストル・草彅洋平の再開発街歩き[立石編]
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文・写真_三原明日香

以前、武蔵小山駅周辺の再開発に際して、「再開発の武蔵小山 東京R不動産・林厚見が歩く」として“ムサコ”の飲み屋街を歩いた東京R不動産の林厚見さん。不動産業に携わる者というだけでなく、個人的にも変わりゆく街の変化に興味を持つ林さんは、“再開発と街”というひとつの現象を、独自の視点で捉えていたのが印象的だった。

今回、今年6月に発表された「立石駅北口地区市街地再開発事業」を前に、再び林さんが立ち上がった。同行するのは武蔵小山をともに歩いた東京ピストル代表の草彅洋平さん。ツアーという形をとり、参加者も巻き込んで葛飾区の立石駅付近を歩いた様子を、ライターの三原明日香さんにレポートしてもらった。なお、東京ではこれからも再開発が続くと予想されるため、タイトルに「立石編」と付けた。ふたりの今後の街歩きにも注目していただきたい。

立石は昭和の面影が残る街だ。駅の南口から降りてすぐのところにある仲見世商店街には、立ち飲み屋やおでん屋、惣菜店などが軒を連ねている。飲み屋の前には、昼から中年男性が行列を作り、モツ焼きや寿司を頬張って笑みをこぼす。夕方には肉屋が揚げるコロッケを求めて主婦たちが列をなす。商店街を歩けば、醤油や味噌の匂いが漂い、洋品店の前ではおばあちゃんの部屋のような香りが鼻腔をくすぐる。郷愁をかきたてられるこの街は、昭和の下町を舞台にしたテレビドラマのロケ地としても使用されている。

この立石駅周辺が、防災を目的にした再開発により、区役所や大型商業施設、タワーマンションの建設予定地となっている。都内のディープなスポットとして知られる「呑んべ横丁」もこの9月末から半分の店が立ち退き、順次撤去が始まっている。

これから立石はどう変わっていくのだろうか?

変わりゆく街の実態に興味を持つ林厚見氏と、東京ピストル代表・草彅洋平が立石の街を歩き、再開発後の未来について語った。

立石駅周辺の再開発事業検討地区。駅を挟んで北と南がそれぞれ開発される。

不動産業界にも「余計なお世話」が蔓延している

草彅:どの街も大手資本が入ると、小さな店がどんどん潰れていくじゃないですか。立石は個人店も勢いがあるし、町工場も含めて全部がいいバランスで成立しています。そこが立石の魅力だと思うんですよね。

林:俺は3回しか来たことがないけど、独特の魅力があるよね。人と人の距離が近くて、楽しく飲めて、笑顔で帰っていく場所があるということに、よそ者としてある種の羨望を感じるよ。たまに行ける場所として残ってほしいなとは思いますね。まぁ、「そのために月にいくら落としているんだ?」と聞かれたら、「すみません……」という話になるんだけど(笑)。

草彅:今回は、立石が再開発で変わるということで様子を見にきたんですけど。「呑んべ横丁」も立体交差事業の立ち退きで、営業終了間近の店が多いようです。この横丁、元は戦後にできた木造2階建てのデパートなんですけど、ホント半端なくボロボロですよね。

もとは洋品店なども揃う「立石デパート」だったが、現在はスナック中心の飲み屋街になっている。

林:昭和20年代に作られた建物だから、屋根とか壁とか相当年期入っているよね。でも、あえてここを選んで店をやっている人もいるわけじゃない。そういう人は、ある意味安全上のリスクを引き受けた上で出店しているわけだし、お客さんもそこを選んで通っている。じゃあ誰が困っているかというと、「安全」という名のもとで再開発をしたい人だけかもしれないよ。「火事があったら怖い」っていうおばちゃんはとっくに引っ越しているだろうし。

草彅:確かに。僕、三軒茶屋のゴールデン街みたいなところに「ONSEN」っていう店を作ったんですけど、入居する前に「ここ、地震が起きても大丈夫なんですか?」って結構聞いちゃったんですよね。そしたら「こういう物件は新車ではなく、中古車みたいなもの。価格が安いかわりに、故障するリスクを許容できる人だけが借りるんだよ」って言われてすごく納得した覚えがあります。

林:確かにね。お客さんもそれを承知で行くわけだし。

草彅:日本って余計なお世話が蔓延していると思うんですよ。喫煙や不倫って、その最たるものじゃないですか。本来、自分に迷惑をかけなければ、あとは他人の話だし、勝手にやっていろという話ですよね。全体的にリスクがあるものを上手に乗りこなすことを応援する風土はないですよね。不動産もそれに近い部分があるかもしれません。「もうそこボロボロだから、新しくタワマン作ってあげるよ」って。本当にそれでいいのかな?お客さんにも、「このエリアで万が一災害があって死んでもいいです」っていう署名を書いてもらったらいいんじゃないですかね。行政は「天災が起きた時に国民を守るため」という方便で再開発するので、そういう署名があれば誰も文句が言えなくなるわけです。

林:なるほど。リスクを承知した上で利用したい人がいる限り、行政があまり口を出す必要はないのかもしれないね。まぁ、結局、ここは更地にした後、区役所になるんだけど……。住民からは「駅周辺に区役所やタワーマンションは必要か」という疑問が出ているらしいけど、必要のルーツは、「そろそろこれは建て替えなければいけない」という事実だよね。じゃあその分の容積を使って何をするかというと、タワマンや商業施設を作ったほうが短期的には儲かるし、日本人のほとんどは「それでOK」というのが現実です。ただそこで戦う人々は常にいるわけじゃない。

北口再開発のイメージ図。駅北側は区役所、分譲マンション、商業施設が予定されている。

草彅:そういえば、最近新しく店を出すために横丁をリノベーションしているんですけど、古い木造建築ってすごい補修費がかかるんですよね。だいたいシロアリが巣くっているし、ネズミなどの害虫も多いし。何十年と巣食っている害虫を根絶するなんて、やっぱりリノベーションじゃ無理ですよね。だからタワマンを作るのが手っ取り早いという発想は理解できますけどね。

林:分譲マンションの建設は反発もあるけど、作ったら作ったでまあ売れるとは思いますよ。「立石にタワマンが似合わない」と思う人はそこそこいるだろうけど、タワマンはいやだ!というのはいわゆる“文化的”な人で、全体の1割くらいしかいないかもしれないし、お金をもらって要らない、という人はもっと少ない。

草彅:我々はマイノリティなんですね(笑)。立石って酒を飲むカルチャーがあるから、それは風土として残してほしいですね。これまでとまったく違うモノに変わっちゃうのは、歴史を継承していないように感じるなぁ。区役所を作るなら、一階を飲み屋街にしたらいいと思いません?

林:そうだね。仮に「呑んべ横丁」をそのままの形で残すなら、一つだけ見つかっているソリューションがあって。東京駅で赤れんが駅舎が復元されたじゃない。あれも最初は高層化しようっていう話だったんだよ。だけど、JR東日本は結局駅舎を残して、使わなかった空中の権利を周辺のビルに売却したんだよね。だから「呑んべ横丁」を補強した上で、容積率の転売をするという選択肢もある。火災が心配ということだけど、今は耐火性の高い木造建築もできるし、放水するドローンを飛ばすとか、スプリンクラーをつけることでも対応できないわけではない。

草彅:駅舎の復元という話だと、僕の知人が「呑んべ横丁を新しく作り直して、レトロな感じで再現するのはどう思うか、林さんに聞いてくれ」って言っていました。

林:キッチュな形でレトロスペクティヴなものをやるのは、エンタメコンテンツとしてはあっていいと思うんだけど。立石はリアルだから、フェイクで引き継ぐというのはあまり賛成しないな。本当に一部を残すか、新しいフォーマットを創造的に作ったほうがいいと思う。というのは、今は何の変哲もないコンビニも、100年後の人たちが見たら「超かっけぇ!」ってなる可能性はあるんだよね。AKB48も100年経てば歌舞伎なんだと誰かが言ってたけど。時間が経って価値が宿るかどうかっていうのは、魂をこめて作っているかどうかの問題。だから、レトロスペクティヴなものを真似するよりも、今できるもので、スピリットのこもったものとか、創造的なものを作らないといけないんじゃないかな。

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