去る8月、遊郭専門書店カストリ書房が店舗を移転した。移転先は元の店舗からそう遠くない、かつて遊郭の周りを囲んでいた“お歯黒どぶ”の縁。新吉原と呼ばれた廓の中に店を構えてから1年余りを経て、緩やかに拡張を続けるカストリ書房を訪ねた。

移転したカストリ書房。暖簾の風合いは変わらず。
“洗浄”器具がお出迎え
「遊郭専門書店」としてカストリ書房がオープンしたのは2016年9月。店主の渡辺豪さんは書籍を仕入れて販売するだけでなく、編集者と版元の顔を持ち、『全国女性街ガイド』(渡辺寛著)や『全国遊郭案内』など、絶版になった遊郭関連の書籍を「カストリ出版」名義で復刊してきた。追加取材を施すなど今の読み手を楽しませる工夫も凝らされており、資料価値も髙い書籍ばかりだ。さらにグッズを販売したりトークイベントや落語会を開いたりと精力的に活動を行ってきた。
それが今年の8月、クラウドファンディングでの費用募集とともに店舗移転を発表。新しい店舗は元革製品をつくる工場として使用されていたらしく、引き戸を開けると3帖ほどの土間が広がっていて、その先に畳敷きの小上がりがある。旧店舗よりだいぶ広いため、本棚の数も増えた。以前と同様に、渡辺さんが編集作業ができるをするためのワークスペースも確保されている。

店内。以前の店舗の倍以上の広さ。
目についたのが中央に鎮座している錆びた円筒だった。店主の渡辺豪さんが、上の蓋を開けて説明する。

店主の渡辺豪さん。カパッと。

ヒーターらしいものが入っている。
「遊女が“洗浄”のために使っていたものです。コンセントを差して湯を温め、薬剤を入れて、蛇口にチューブを付けて使用していたようです」
正式名称は電熱定温洗浄器。遊郭で働く遊女たちが避妊のため、膣の洗浄に使用した専用器具だ。

電熱定温洗浄器。風格がある。
製造元の記載を見ると住所には飛田大門とある。名古屋の中村遊郭が閉鎖されると聞き、譲り受けたものらしい。吉原で同様の器具が使用されていたかは定かではないが、洗浄自体は慣例とされていた。こうした歴史の遺産に触れることができるのも、カストリ書房ならではである。