JR蒲田駅西口の繁華街にある雑居ビルの4階。「パブ・東京オアシス」と書かれた扉を開けば、広いワンフロアで飲み、歌い、そして踊る人々の群れに圧倒される。古きよき時代のキャバレー? 否、そこで体験するのは、単なる昭和のノスタルジーなどではなく、時代に寄り添いながら変容を続ける東京酒場の最前線。一体、この店はいかにして生まれたのか。その中心でフロアをコントロールする司会者・もんちゃんと、オアシスのオーナー・キャシーに訊いた。
店それ自体がルール
固定観念を覆す蒲田の老舗パブ
──まずはお店の歴史からお伺いしたいのですが、「オアシス」はいつから蒲田で営業を始めたのでしょうか。
キャシー:私がお店を始めたわけではないから詳しいことは分からないんですけど、バブルの頃は大田区内で8店舗を構えるチェーン展開のパブでした。今はこの1店舗だけです。私がオーナーになったのは平成4、5年の頃で……。
──そもそも創業はいつ頃になるのでしょうか。
もんちゃん:計算すると、もう40年ぐらい前じゃないですか。始めた頃にはすでにチェーン店としてスタートしていたみたいです。
──22、3年前にキャシーさんがオーナーになられたということですが、当時からこの場所に店舗を構えていたのでしょうか?
キャシー:いや、違うんです。ここは西蒲田7丁目になるのですが、以前は5丁目のほうにありました。
もんちゃん:ここに越してきたのはちょうど10年くらい前ですね。もともとスナックだった場所を居抜きで。
──もんちゃんさんがお店に入られたのはいつ頃でしょうか?
もんちゃん: 14年くらい前です。でも、一度卒業してるんですよ。しばらく他所の世界を見て回って、それで2年前にオアシスに戻ってきました。トータルするとちょうど8年くらい勤務していることになります。
──3,000円で2時間飲み放題、歌い放題という店の基本的な営業スタイルというのはずっと変わってないのでしょうか?
キャシー:いえ、いろいろと変わってますよ。私がオーナーになった最初の頃はボトル制でしたし。
もんちゃん:15年ぐらい前に、みんなに安く飲んでもらおうっていうことで今の2時間セットというのができました。当時、蒲田界隈ではまだそういうシステムをどこも取り入れてなくて、オアシスが走りだったんですよ。
うちの店はハコが広いですから、やっぱりそれを埋めていくとなると、来やすさや手軽さが大事になってくるんですね。徐々にそういう時代になってきた時期だったと思うんです。それがどんどん浸透してきて、広がったという感じですかね。友達を誘いやすいみたいです。
キャシー:街もだいぶ変わってきてますから。それこそ30年くらい前ですが、古くは蒲田も町工場がたくさんあって、小さい飲み屋も繁盛しましたよね。バブルが弾けてからは、小さい工場が次々と潰れて、あっという間に不景気になってしまった。今、オアシスに来る60、70代の方々はそういう世代ですよね。
もんちゃん:ドーンッと不景気になった時に、蒲田の飲み屋もだいぶシビアになったんですよ。ここまでしかお金が使えないから、その中でいかに上手に遊ぶかっていう時代が続いた。そこでオアシスの2時間セットっていうのがハマったんですよね。明朗会計ですから。
最近は少し景気も上向きなんじゃないですか。ただ、昔みたいにみんなでワーッと調子に乗るのではなく、バブルがはじけておかしくなるっていう以前の経験をみなさんよく知ってるから、ペースを崩さず上手に遊んでいるっていう印象ですね。
──従来のスナックやパブ、キャバレーと聞くと、けっこうお金にも余裕があって、遊べる人が足を運ぶというイメージでしたよね。時代の移り変わりに、店の営業スタイルも合わせていったと。
もんちゃん:そうじゃないとたぶん残っていけないですよね。これが僕らのカタチだっていうのは持ってますけど、それをお客さんに押し付けていくっていうのはちょっと違うと。いくらこちらがキレイごとを言っても、お客さんが来なかったら意味がないんで。
──取材の前に初めてこのお店に遊びに来た時、一見さんをここまでもてなしてくれるパブそうないだろうと衝撃を覚えました。接客について、オアシスのコンセプトのようなものがあれば教えていただきたいのですが。
もんちゃん:いろんな人が幅広く来るようになるには、平等感ということがすごく大切になってくるし、自分たちももっと広げていく必要があって。昔、新規のお客さんが店の扉をパッと開いた瞬間に「あ、ここ常連さんの店ね。私いいわ」って引かれてしまったことがあって。その言葉があまり好きじゃないんですよね。
だから、常連さんが嫌ということではなくて、「常連さん」という言い方をしないようにした。よく見る顔もいるんですけど、あえて差をつけない。いつ来ても同じ。そこはこだわっていきたい。そうすれば、何年経ってもそのお客さんと楽しく喋れるじゃないですか。
キャシー:最初から常連さんだから、一見さんだからって差別することはできないんです。このハコに入ればみんな同じ。外国人のお客さんだって、どこの人であっても同じなんですよ。なぜなら、料金は同じですから。
──お店そのものがルールになっているというのは、オアシスに足を運んだお客さんは全員感じるのではないでしょうか。誰が来ても平等に接する。平等にコミュニケーションを取る。お客さんとの距離感は常に一定で、それが一貫していますね。
キャシー:人を見て料金を取るんじゃなくて、すでに料金は決まってる。それは徹底してます。もうずっと前から。
もんちゃん:私たちはプロなんで、いい距離感を測りますよね。お客さんのほうは感情を持ってワーッと近づいてきたいということもあると思うんですよ。でも、それはこちらで調整しないと、店を保っていけない。数十年単位で考えてますから。
結局、キャシーの時代から今まで引き継いでるお客さんっていうのもいるわけです。それを考えたら、そのお子さん、またそのお子さんが孫を産みましたっていう状況になってきているので。それだけ長く続けていくためには、やっぱり距離感が大事。