2014年に土産物ブランド〈新吉原〉を立ち上げた岡野弥生は、吉原の遊女をモチーフにした手ぬぐいや絵札などの商品ラインナップから、当初「男性が作っていると思っていた」と言われることが多かったという。TOwebが岡野を取材したのは、そんな昨年8月のことだった(「日本一のソープ街・吉原発のブランドが見据える5年後の吉原:〈新吉原〉デザイナー・岡野弥生インタビュー」2015年8月25日)。
それ以降、〈新吉原〉は吉原から羽田空港「KIRI JAPAN DESIGN STORE」や新宿「BEAMS JAPAN」へと取り扱いの場を広げ、新しい“東京土産”として、ローカルからその足場を確かなものにしてきた。今年5月26日(木)には「江戸のおしゃれタウンふたたび」という見出しで朝日新聞に取り上げられた。
そして6月3日(金)、初の実店舗「岡野弥生商店」がオープンした。場所は台東区西浅草。吉原と呼ばれる千束から南に少し下った、浅草ビューホテルの裏手だ。つい一ヶ月前には三社祭で賑わった路地も、今はひっそりと息をひそめている。TOwebは開店を翌日に控えた同店を訪ねた。
トイレ工事から塗装まで
地元の仲間とつくった店
──いつ頃からお店を出そうと考えていたのでしょうか。
お店というより、自分のスペースが必要だなと思ったのが昨年末でした。それまで吉原の実家に在庫を置いていたんですが、もう手狭になってしまって。それで周りに「スペースが欲しいなあ」と話していたら、前回TOwebでインタビューの場所として使わせてもらった「デンキュー」のクリスが、「うちの隣を借りたら?」って言ってくれたんです。

右手に見えるのが「デンキュー」。店頭の大きな電球ランプは夜になると七色に光る。
クリスとは、お金もないのにふらっとデンキューに入ったのが出会いのきっかけです(笑)。自転車で通りかかって「あ、バーがある」と思って寄ってみたんですけど、最後にお財布を持っていなかったことに気づいて。
でも、その時におしゃべりしてすごく仲良くなったんです。彼はオーストリア人なんですけど、ここらへんのディープな飲み屋とかすごく詳しいんですよ。それで「私、こういうの作ってます」って言ったら「商品を飾っていいよ」って。
──そんなクリスさんの紹介で物件が見つかって。
そうなんです。クリスはこの通りの雰囲気をちょっと変えていきたいと思っていたみたいで。
この場所は昔はスナックで、そのあとはずっと大家さんの書庫だったそうなんです。壁も床もコンクリートむき出しのままでした。私が入ることになって、書庫にあった荷物を3軒先の部屋にみんなで動かしたんです。大家さんの会社の部下を呼んでもらって、一緒に動かすっていう(笑)。
──地元感ありますね(笑)。
大家さんはすごく優しくて応援してくれています。不動産屋さんも、お互い江戸っ子だとわかって結局仲良くなって(笑)。
物件の話を聞いて、契約したのが3月の頭。そこからスケジュールをバババッと決めました。ゴールデンウィークから工事が始まって、1ヶ月かけて完成しましたね。

入り口から店内を眺める。奥の手ぬぐい三種のうち、中央は「BEAMS JAPAN」限定アイテム。

新吉原マグカップは在庫がなくなり終了だという。

人気商品の手ぬぐい。左は「お縄」、右は新作の「一服」。
──タイミングが良かったんですね。
すごく運が良かったです。業者さんたちにすごくいいタイミングでお願いできました。
──お店が出来ていく工程をInstagram(@shin_yoshiwara_yayoi)で公開されていましたよね。岡野さんの知り合いの方が登場して工事をしていて、興味深く眺めていました。
全体的な内装の監修はインテリアデザイナーの大重暁さんにお願いしました。他で関わってもらった業者さんも、ほとんど知り合いばかり。トイレ工事はデンキューのお客さんがやってくれて、電気屋さんもその人に紹介してもらって。塗装も昔からの友だちが全部やってくれました。
ちょうど工事が空いた時期があって、「何か入れたい!」と思って、床だけ地元の工務店に連絡したんです。でも「塗装は最後だ!」って怒られたりして(笑)。

岡野弥生さん。着物は卸先でもある中目黒「KAPUKI」で仕立てたもの。
──もはや現場監督ですね。
いや、現場監督はちゃんといるのに、私が他に発注しちゃったもんだから、順番がおかしくなっちゃって……。でも本当に、みんなのおかげです。