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パンの未来は世田谷にある 〜パンラボ池田浩明による世田谷パン論〜

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パンの未来は世田谷にある 〜パンラボ池田浩明による世田谷パン論〜
FEATURE
東京で起こっているハイパーローカルな動向を独自取材し、特集形式でお届け。
2015年7月22日
パンの未来は世田谷にある 〜パンラボ池田浩明による世田谷パン論〜
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写真_大志摩徹、鈴木渉、下屋敷和文/文_池田浩明/イラスト_ルーカス・D・マーカス/編集_川田洋平、飯田ネオ

世田谷を歩けばパンに当たる。そう言っても過言ではないほど、見渡せばそこかしこにベーカリーショップが見える。ソフト、ハード、天然酵母、国産小麦など、あらゆるジャンルを網羅した世田谷区は、まさしくパンの王国だ。パンラボ池田浩明氏とともに、その深部を探ってみた。(※この記事は、2015年7月発売の雑誌『TOmagazine』の世田谷区特集号〈上編〉からの転載になります)

偉大なるシェフから受け継ぐ
世田谷パンの系譜

世田谷のパンが日本のパンになる。この町で、時代を象徴するような新しいパン屋が生まれ、全国で模倣されてきた。だから、世田谷のパン屋を見れば日本のパンの過去がわかり、これからの日本のパンが読めるかもしれない。

‘80年代後半に登場した「ベッカライ・ブロートハイム」(桜新町)。そのバゲットは立ちどころに消える。店を出て我慢できず、焼きたてのそれを一口齧ったが最後、家に帰るまでにすべて食べきってしまったことさえある。日本のフランスパンの原点は、’54年に「ドンク」が“パンの神様”ことフランス国立製粉学校のレイモン・カルヴェル教授を招請したことにある。

ブロートハイムの明石克彦シェフは、今でもことあるごとにカルヴェル氏のレシピを紐解きながら、彼が伝えた伝統的フランスパンの製法を引き継ぐ。それはパンだけに限らず、店のあり方にも及ぶ「フランスではパン屋が街の町会長」とは明石シェフの言葉。パリには、界隈にひとつはブーランジュリーがあり、1日1回必ず近隣の人たちがやってくる。ボンジュールと挨拶を交わし、安否と絆を確認しあう。そうした役目まで担おうとするこの店のあり方は、全国の後続する「ブーランジュリー」に大きな影響を与えた。

それは、この店へとつづくアッパーミドルな住宅街を見るとき、世田谷に育まれたものだと気づく。憧れのマイホームで欧米的な食卓をキャッチアップすることが幸福だとみんなが思っていた、バブル以前の古きよき時代の空気を感じる。

戦前から2000年代まで、日本のパン史をまとめたもの。

戦前から2000年代まで、日本のパン史をまとめたもの。

フランスパンの日本での受容は、カルヴェル教授が派遣した“パンの伝道師”ことムッシュ・ビゴを中心に行われてきた。「パンテコ」(駒沢大学)はビゴ氏の直弟子である松岡徹さんの店だ。厳しい研鑽により松岡さんは単に小麦粉と、水と、塩という最小限の材料しか使用されないバゲット生地でさえ「毎回違った色に見えるようになった」という。カルヴェル教授が伝えたパン・トラディショネル(伝統的なフランスパン)の神髄を知りたければ、この店でバゲットを買うことをおすすめする。また、東京でムッシュ・ビゴの看板を背負う「ビゴの店」もこの世田谷に店を構えている。

ブロートハイム明石シェフの盟友、金林達郎さんが初代シェフを務めた「タイユヴァン・ロブション」(現ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション)。そこで厳しい修行を行った須藤秀男さんの「ブーランジェリー・スドウ」(松陰神社前)は、微塵のブレもなく完璧な姿形のパンが並ぶ圧巻の眺め。行列の絶えない人気店で、ロブションのホップ種の製法を引き継ぐ世田山食パンは予約なしに買うことができない。発酵のフローラルな香り、もっちり感や抜群の口溶けは食パンの極みといえるだろう。

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